外国人ゲスト向けプライベート能楽体験レポート

京都市内の能楽堂を貸し切り、メキシコからお越しのご夫婦2名を対象に、プライベート能楽体験を実施しました。ゲストはお二人とも俳優として活動されており、能楽を含む日本文化に強い関心をお持ちです。うちお一人は、能を非日本語圏の実践者に向けて教えてきたリチャード・エマート氏のワークショップを受講された経験があり、事前知識をお持ちの状態でのご参加でした。
今回は7月に実施したプライベート能楽体験についてレポートします。

Table of Contents

体験概要

プライベート能楽体験の講師は、国指定重要無形文化財(能楽)技能認定者である能楽師です。
体験の所要時間は約90分。プログラムは、能楽解説、能面と装束をまとっての舞台歩行体験、プライベート公演、質疑応答と記念撮影という、対話を重視しながらも話を聞き、実際にご自身でも舞台上で能楽師の所作を体験していただき、お二人のゲストだけのための公演を鑑賞するというとても深く内容の濃いものでした。

一般的な能楽鑑賞は、客席から演目を観るかたちで完結します。能楽堂そのものを貸し切り、ゲストが舞台上に立つところまでをプログラムに織り込んだ今回の体験は、まさに他に類を見ない特別なものと言えるのではないでしょうか。

体験前に、ゲストから次のようなリクエストをいただいていました。

私たち夫婦はともに演劇の実践者です。能の身体技法や型、動き、舞台上の実践について学びたいのはもちろんですが、それらの形式に深みと美しさ、そして幽玄をもたらしている芸術的・哲学的な原理についても、深く知りたいと考えています。

このリクエストを受け、所作の実演や体験にとどまらず、「なぜその形式が成立しているのか」という原理の部分に時間を割く構成としました。質疑応答に十分な時間を確保したのも同じ理由によります。

体験プログラムの内容

能楽師による解説

装束を出す前に、まず能舞台の構造について解説を行いました。能舞台は各部の形式が定まっており、そのひとつひとつに理由があります。

  • 屋内の能楽堂にも舞台の上に屋根がある — 能はもともと社寺の境内など屋外で演じられていたためで、建物で覆った現在の能楽堂にも屋根が残されています
  • 目付柱(めつけばしら) — 舞台正面右手前の柱です。面(おもて)をつけた演者の視界は極端に狭くなるため、この柱を基準点として自分の位置と舞台の端を把握します
  • 橋掛かり(はしがかり) — 舞台の左手奥へ伸びる通路です。単なる登場口ではなく、異界と現世をつなぐ通路として扱われ、曲の重要な部分がこの上で進むこともあります
  • 橋掛かりに沿う三本の松 — 舞台側から順に小さくなっており、奥行きを実際より長く見せる働きがあります
  • 鏡板(かがみいた) — 舞台正面奥の板で、老松(長い年月を経た松の木)が描かれていることが多い部分です。奈良・春日大社の「影向(ようごう)の松」を鏡のように映したという説があります。影向とは神仏がこの世に降臨することを指し、能舞台が演者の神に向かって演じる神聖な空間であることを示しています。また、常緑の松がどの季節においても変わらないことから定着したとも考えられています
  • — 板には主にヒノキが用いられ、能楽の音を効果的に響かせるための特殊な設計となっています。今回の能楽堂は床下に大きな甕(かめ)を設置しており、足で踏む拍子(足拍子/あしびょうし)の音だけでなく、謡の声や楽器の音にも影響するとされています

解説は一方向の説明ではなく、ゲストからの質問に答えるかたちで進行しました。お二人が俳優であることから、質問は舞台実践に即した内容が中心となっています。

能面と装束をまとっての歩行体験

続いて、実際に能装束を着け、面をつけて能舞台を歩いていただきました。

能装束は絹を重ねた構造で、外衣には厚く文様が織り込まれています。全体としてかなりの重量があり、身体の動きに沿って流れることはありません。装束が形を保ち、その中で動きを作る必要があります。

能面の目の穴は瞳ほどの大きさしかなく、周辺視野はほぼ失われます。足元を見ることもできません。解説で触れた目付柱が実際に何のためにあるのかは、面をつけて舞台に立った状態で初めて具体的に理解できる部分です。

歩行は摺り足で行います。足裏を床から離さず前へ滑らせる歩き方です。正しく行うと頭の高さが一定に保たれ、上体が上下しません。見た目の印象に反して、膝を緩め、腰を落とし、装束の重量を支えながら上体を保つという、相応の身体的制御を要求する歩き方です。

面をつけると、能面の角度による表情変化も内側から体感できます。少し首の角度を変えるだけで表情が変わります。演じている本人の感覚と、正面から見た印象が一致しないという点が、実際につけてみて初めてわかる部分です。

プライベート公演

歩行体験のあと、ゲストには客席に移っていただき、講師による公演を行いました。

貸切の能楽堂では、他に観客がいないため音を吸収するものがありません。謡は増幅なしで届き、足拍子は床下の甕の共鳴を伴って響きます。装束が動く音まで聞き取れる環境です。

能は所作を最小限まで削ることで成立している芸能です。世阿弥の「秘すれば花」という言葉に表れるこの原則は、満席の客席から遠く観る場合と、数メートルの距離で観る場合とでは、伝わり方が大きく変わります。貸切公演は、後者の条件を確保するための構成です。

質疑応答と記念撮影

最後に質疑応答を行いました。ここが今回のセッションで最も長い時間を占めた部分です。

ゲストは講師の解説を熱心に聞かれ、ご自身の俳優としての経験から生まれた疑問を、そのつど講師に投げかけていらっしゃいました。演劇の実践者として能に関心を寄せ続けるなかで生じる疑問を、能楽師本人に直接尋ねられる機会は多くありません。セッションは逐次通訳で進行しました。今回の通訳者は自身も能を習っていた経験があり、能楽についての知識を備えています。そのため専門的な内容や能特有の用語も、意味を落とさずゲストに伝わりました。ゲストは自身の言語で質問し、簡略化されていない回答をそのまま受け取ることができます。

講師は、質問の水準に応じて具体的に回答しました。終了後、能舞台上で記念撮影を行いました。

技法と、その背後にある理念の両方を知りたいという事前のリクエストに対し、ご満足いただける内容となりました。

より深く日本文化を体験したい方へ

今回の能楽体験は、客席から演目を鑑賞して終わる一般的な能楽鑑賞とは異なります。BASE KYOTOでは、ゲストおひとり様から、ご家族やご友人同士のグループ、企業研修やインセンティブ旅行、国際会議後のアクティビティといったMICE案件まで、興味・目的・滞在スケジュールに合わせて内容を組み立てるプライベートセッションを提供しています。

逐次通訳でのセッションのため、日本人と外国人が混在するグループにも対応しています。通訳者は体験内容に応じて手配しており、能楽体験では能を習った経験のある通訳者が入ります。

体験を通じて得られるもの

  • 能楽堂を貸し切り、能面と装束を身につけて能舞台に立つという客席からの鑑賞では得られない体験
  • 能舞台の構造やそこに込められた意味など、教科書的な説明にとどまらない現役の能楽師による実践に基づいた知識
  • 至近距離でのプライベート公演と対話を通じて触れる、能を含む日本文化の深い知識と精神

能のほか、茶道、和菓子作り、坐禅、狂言など、京都の年中行事や祭礼に関する知識を交えながら、少人数のご旅行から団体でのご利用まで、京都ならではの文化体験をオーダーメイドでご提案しています。

お申し込みについて

まずはお問い合わせフォームより、ご希望の体験内容・人数・ご希望日時をお送りください。内容や時間、開催場所についてご相談のうえプログラムをご提案します。今回は能楽堂での体験実施でしたが、ホテルの会議室や宴会場などへも出張可能です。体験内容と所要時間はプランによって異なります。
今回は90分の構成でしたが、ご関心やご予算に応じて内容やお時間は調整致します。内容確定後、お支払いはPayPalにて承っております。

実施可否は能楽師の公演スケジュールに左右されるため、他の体験より早めのご相談をおすすめしています。

当日の流れ(能楽体験の場合)

京都市内の能楽堂にお越しいただきます。まず能楽師による能楽の歴史と能舞台の構造についての解説を行い、その後、能面と装束を着けて実際に舞台を歩いていただきます。装束はお召しの服の上から着用しますので、普段着でお越しいただいて問題ありません。後半は貸切の能楽堂でのプライベート公演をご覧いただき、質疑応答と記念撮影で終了となります。逐次通訳には能楽に通じた通訳者が入るため、専門的な内容もスムーズに理解いただけます。予備知識は不要です。ゲストの関心の所在に応じて、解説の重点や公演の演目についてもご相談いただけます。

個人でのご参加はもちろん、団体でのご利用をお考えの方も、お気軽にBASE KYOTOまでお問い合わせください。

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